●モノの競争から事業システム=「売り方」の競争へ
日本の経済状況から見れば、デジタル技術の進化だけで無く、市場成熟期は商品・サービス(モノ)の競争から、ビジネスの仕組み=事業システムの競争に移行しています。かつてはヒット商品を生み出せば、大きな成長が出来得ました。
正直それは昭和の時代の話です。仮にヒット商品が出ても、あっと言う間に競合が同じような商品を出し、価格競争に成るのが成熟期の特徴です。 ビジネスの仕組み=事業システムの競争とは何か? 単純に言えば「売り方」の競争です。
この「売り方」をマーケティングと言う言葉に置き換えても良いかと思います。
売れるモノは、そう簡単には出来ません!一つ売れても次は?モノの競争だけでは、勝てなくなって来ています。
今は「売り方」を見出してこそモノが売れる!世界的に視ても、その様になっています。
一番大きな事例としては、アマゾンvs既成書店です。売っているモノは書籍(そもそも)で変わりませんが、店舗かECか!での「売り方」の違いで、その勝負がついてしましました。
デジタル活用以外でも、やや旧い事例ですが、総合小売りの時代から、専業小売りが優位になっています。カテゴリーキラーと言われる業態です。
売り方の違いです。
ミスミと云う会社はカタログでの工業用部品販売で急成長しました。アスクルは同じくカタログ販売で事務用品・オフィス文具で成長(今は、どちらもデジタル活用していますが、元はカタログ販売です。) 特にデジタル化が進む昨今は、更に新しい「売り方」が沢山生まれていますが、何も「売り方」の進化は、デジタル活用だけではありません。
●「売り方」・・・集中とネットワーク。そして「意味」
この「売り方」の進化の本質は何でしょうか? その中心は、まず顧客の利便性=効用です。早い話「便利」だからです。
専業小売店は、必要な商品ゾーンについては総合に比べ圧倒的に多いですし、カタログやネットからの注文は便利です。集中した分、専業にコストメリットもある。 その便利さの価値に集中した事が、まず第1のポイントです。 もう一つは、その価値を真ん中にしてネットワークを作った事です。ネットワークとはITだけには限りません。カタログの時代からネットワーク化は行われています。
アスクルは既存のリアルな販売網をカタログ配布や配送に活用しました。
ここで「ネットワーク効果・ネットワークの外部性」と云う経済学の言葉を覚えて下さい。※詳しくはコチラ・・・Wikipedia
早い話、便利なネットワークに入ると中々抜けられない!と云う事と、ネットワーク自体が多くの人が参加すればする程、そのネットワークの価値が上がり! そのネットワークから抜けられなく!と云う話です。 ネットワークから外れる手間やデメリットをスイッチングコストと云います。
かつては、ケータイ電話がキャリアを変える時に、番号が変わってします!それがスイッチングコストです。 このネットワーク化が新しい「売り方」の大きな要素です。 色んな会員制や、ポイント制やら、メンバーズカードやら!すべて、この「ネットワークの外部性」を狙うのが目的です。 顧客にとっての価値に集中し、その「売り方」から「離れたくない!」と思って頂く事、そんな「売り方」が、現在の競争です。モノは、すぐに真似られますが、本当に良いシステムは真似にくいモノです。
ネットワークの考え方は、業界ごとに様々に生まれると思います。
問題は如何なる価値を軸にしてネットワーク化を図るか?です。それが事業システムの核に成ります。
●新しい「売り方」=事業の仕組みの「意味」=信用
そして様々な新しい「売り方」が生まれていますが、一つだけ!特に日本の企業が多く忘れている事が有ります。それは売り方の「意味付け」です。 事業システムとしての「売り方」を創っても、その「意味」・・・当方が言う「ブランド化」が出来得て無い!あえて言えば「信用」を得る事を忘れている。
アマゾンが台頭した時、世には新興のEC企業が沢山ありました。日本でもそうです。その殆どが「売り方」の機能ばかりを追い求め、顧客にとっての「意味」創り=特に「信用」を忘れていました。
アマゾンの特徴は、購買者のレビューにあります。そのレビュー(口コミ)を書いてもらう事で、「売り方」の信用を先行して得ました。
その後、多くのEC等に採用されましたが、先駆者としてのネットワーク外部性を得た訳です。
「売り方」を考える時は、そのシステムと共に顧客の意味を、どう埋め込むか!?
大きくは、ここにポイントがあります。
●やってはいけない事…価格を軸にする!効率を追求しすぎる!
逆に、今の時代「売り方」を考えるにあたり、やってはいけない事は、価格だけを軸にする事。かつてのダイエーの様な、大量仕入れ・大量販売で安さを武器にした「売り方」で成長しました。しかし、今の日本市場は成熟期です。価格では無く、価値を軸にして利益を重視する「売り方」にする事が肝要です。
そして、その利益の為に、効率化を追い求めすぎる事もダメです。その事例は、顧客対応での効率化です。コールセンターなんかを外部に頼み、内部経費を落とすのは悪い事では無いですが、余りにも顧客を蔑ろにし過ぎです。そういう事は多々あります。
せっかくの「ネットワーク効果」から、顧客が出て行ってしまいます!
当方もいくつも出て行かせて頂きました!
某新興のケータイ電話会社が、安い価格で、まず顧客をかき集め、その後条件を変えたら、一気に顧客離反を招いた例もあります。
はっきり言って顧客をバカにしていたとしか!思えません! その様な事も含め、良い事業システムとは、事業体全部がシステム=体系として、「売り方」を構築しなければ成りません。 あえて申し上げれば、「売り方」の競争は、その事業の仕組み=体系の競争です。
マーケティング・プロデューサー
原 テルキ